風景と地域づくりの
出会いと発見DIARY
景観研究室は、プロジェクトや研究を通じて、九州各地の風景・地域づくりに取り組んでいます。地域の人達と未来を語り合う、デザインについて現場で喧々諤々議論する、素敵な風景や食文化を見つける、地域の人達との長いお付き合いが始まる…風景・地域づくりの中で、たくさんの出会いや発見、感動が生まれる毎日。そんな景観研究室の日常をお伝えしていきます。
August 26, 2013
コアセミナー2013 「地元杉材を使って、みんなで座れるベンチをつくる」

今年度の前期も、大学1年生が4年生になって配属される研究室を体験する授業(コアセミナー)が行われました。
去年と今年のコアセミナーと景観研究室のメンバーで作成したベンチ計6基は8月に唐津東港プロムナードに設置されました。
ここでは、コアセミナー、ベンチ設置の経緯、募金活動、設置、完成セレモニーまでの一連の流れを紹介します。
去年のコアセミナーについては、カテゴリー「コアセミナー2012」で紹介しています。
今年のコアセミナーのテーマは、「地元杉材を使って、みんなで座れるベンチをつくる」です。
温暖多湿な九州は、昔から木材の大産地でした。今も九州では広く林業が営まれています。地球温暖化のための二酸化炭素削減、環境に優しいまちづくりなど今日的な課題に取り組む上で、国産材の活用はとても重要です。
これまでのコアセミナーでは、橋を設計して模型にすることに取り組んでいましたが、去年から模型ではなく実物を作っています。その実物というのが木のベンチです。
ベンチ製作を通して、木材の性質、木組み構造の強さ、加工のコツについて勉強することをコアセミナーの目的としています。
コアセミナーでは、山の木を切り出すところからベンチが完成するまでの一連の流れを見学、製作を通して勉強しました。授業の日程とは多少前後していますが、以下の流れに沿ってこれから説明していきます。
①木の伐採
②木材市場
③製材
④加工
⑤図面の確認
⑥仮組み立て
⑦防腐処理(エコアコール処理)
⑧本組み立て
コアセミナーで扱う地元杉材として、佐賀県産材のものを使い、製材は栗原木材店、加工は井上木型、エコアコール処理は九州木材工業にお願いしました。
栗原木材の栗原さん、九州木材工業の内倉さんには見学までさせていただき、授業を通して大変お世話になりました。ありがとうございます。
第1回目の授業がオリエンテーションで、第2回目がベンチに設置される唐津港の見学に行きました。
トロッコ倉庫の近くに既に1基設置されているベンチの実物を見たあと、ベンチを設置する予定の東港プロムナードを見学しました。
その後は、西ノ浜、唐津城、旧唐津銀行と、みなとや市内の様子を見学しました。

唐津城からの1枚、背景の右側には虹の松原が見えます。
実際に歩たり、唐津城から見下ろしてみなとの風景を感じ取ってもらえたかなと思います。

August 26, 2013
①木の伐採

まずは、栗原さんに唐津市の山に連れていってもらい、木が伐採される現場を見に行きました。
最後に完成するベンチも全てはここから始まります。
TAという教える側の立場ではありますが、この授業を通してベンチが完成するまでに実際にたくさんの人、現場を経ていることを実体験できたのは大きな学びでした。
また、1年生もそのことを見学、製作を通して感じてくれていれば良いなと思います。

山の上の方から見た写真です。
木を伐採するための準備として、伐採した木を下に集積できるようにワイヤーを張ります。
この作業だけで数日はかかるそうです。
準備が終われば、山に登って伐採、枝払いをして、木をワイヤーで下に降ろします。
降ろした木は、スギ、ヒノキやまっすぐな木、曲がった木など仕分けして、ダンプで木材市場に持っていきます。
この山の木を全て伐採し終えるまで半年くらいかかるそうです。
伐採が終えたら、植樹を行い、木が成長したら伐採するというサイクルを数十年単位でまわしているそうです。
急峻な山での作業はとても大変だと思います。

降ろした木を仕分けする重機を実際に操縦させてもらいました。
使い方を教えてもらった後に玉切りした木を動かす作業をしました。
みんな初めての経験なので、戸惑いながらも楽しそうに操縦していました。

現場で働いている人に話を聞くことで、オリエンテーションで聞いた日本の林業の現状について、実感がわいた部分があったと思います。
木材の値段が安くなったことなどは知っていましたが、木材市場で売れない曲がった木が半分以上もあることを現場に行き、初めて知りました。
このような木はチップ用として売るらしいのですが、最近はチップ用としても売れなくなってきているという現状があるそうです。何か良い利用方法はないのでしょうか?
素人目で見る限りでは、イスやテーブルとして利用できそうと思いました。
この見学を通して、木を山から伐採する工程、林業の経営、木の良さについて教えていただきました。
ありがとうございましす。
伐採したばかりの木は匂いが良く、森林の中はとても気持ちがよいものでした。

August 26, 2013
②木材市場 ③製材 ④加工

②木材市場

ここは唐津市内にある木材市場です。
山で伐採された木は、木材市場に一度集められます。
木材の種類、経の大きさ、長さ毎に仕分けられて競りが行われます。
山で伐採された木だけでなく、外国から輸入された木も木材市場に集まります。
③製材所見学

次は製材所の見学です。去年のベンチや転落防止柵でもお世話になった栗原木材店に製材をお願いしました。
市場で競り落とされた丸太は次々とカットされていきます。

カットした部材は水分を多く含んでおり、製品がねじれたり曲がったりするのを防ぐために一度乾燥させます。
その後、乾燥して微妙に変化した部分をもう一度削りなおします。
水分を含んだ木は実際に持ってみるととても重く、この水分が無くなればたしかにねじれが発生しそうです。
この行程で、製材まで完了しました。
④加工
次は製材された部材を、井上木型さんのところで加工してもらいます。
加工してもらうのは、学生ではできない木が組み合わさる部分です。

機械を使い、職人さんの手でひとつひとつ加工してもらいます。
加工してもらったあとの部材を学校に持って帰って、組み立てていきます。

職人さんに普段行っている仕事を見せてもらいました。
これは、船に使用されるチェーン巻き上げ機の木型です。
機械の部品を大量生産する型枠を作るために、同じ大きさの部品を木で作成する仕事をしているそうです。
鉄、銅など実際型枠に流し込んだ後に数mmほど収縮するので、それぞれの収縮する倍率に合わせて木型を合わせて製作しています。
曲線まできれいに加工されている木の部品はすごい技術で驚きました。
栗原さん、井上木型の職人さん、見学させていただきありがとうございました。

August 26, 2013
⑤図面の確認 ⑥仮組み立て

⑤図面の確認
見学と平行してベンチの製作準備も進めていきます。
まずは、図面の確認です。
部品図と組立図をもとに、ベンチを製作します。
景観研のOBがモックアップをつくり、背もたれの角度や強度を考えながら設計したものです。
実際に座ってみると、とても座り心地が良いベンチです。
⑥仮組み立て
栗原木材で製材され、小方木型で加工された木材が研究室に届きました。
届いた木材はとても良い匂いで、新しい木材は見てるだけで気持ちがいいものです。
今日はベンチの仮組み立てです。
木の伐採→木材市場→製材→加工→【仮組み立て】→解体→エコアコール処理(防腐処理)→本組立
という流れでベンチ制作は進んでいき、今後のエコアコール処理を行う際に釘穴にも液が浸透するように借り組立てを行います。
この作業が無ければ、エコアコール処理の効果が釘穴には発揮されず、木材が釘穴周辺から腐っていくことになります。

ベンチ仮組み立て前に、授業が行われました。
1.県産材の木材でベンチを作成する
海外での木材乱伐による問題、日本の林業の現状と木材使用、エコアコール処理について説明があり、県産材の木材で公共物であるベンチを作成する意義について学びました。
2.木ベンチの設計、構造
なぜ、ラーメン構造を選択したのか?どこに大きな力がかかり、それに対応するために行った設計について説明がありました。利用者、加工の手間、見栄えなど場所毎に設計意図について学びました。
大事な箇所とそれ以外箇所にメリハリをつけながら、カタチを選択して今回の設計が成り立っています。
今回説明した内容は、今後建設都市コースに進学すれば、「固体力学」「構造力学」で詳しく学んでいくことができます。
ベンチ制作を通して力学に興味を持ち、勉強すれば今後自分でベンチを設計できるでしょう!

勉強した後は、実践です!
まずは、基礎になる土台部分から制作していきます。
土台がズレると、全てにズレが生じるので、抑えをきかせながら、慎重にネジを打ち込みます。

こちらは強度が必要な背もたれ部分なので、せん断力に強いコーチスクリューボルトが通るように加工しているところです。穴の深さを図りながら、微調整しています。
今日の作業は、土台作成と予備穴を開けて終了しました。
ベンチについて勉強した内容と照らしあわせて作業するのは、学習効果が高いと思います。
1年生にとってベンチ制作がただの作業になるのではなく、木材について学んだり、力学に興味をもったりする機会になればと思います。

仮組み立て完了です。
せっか組み立てられたベンチですが、エコアコール処理をするため、すぐに解体します。

August 26, 2013
⑦エコアコール処理(防腐処理)

エコアコール処理とは・・・
九大農学部の樋口光夫教授と九州木材工業と福岡県工業技術センターインテリア研究所により開発された木材の防腐処理技術です。
この技術は、国産木材、特にスギ・ヒノキを有効活用して、林業の活性化、森林保全が行われるように願って開発されたそうです。
エコアコールウッドは木材の劣化の原因といわれる割れ・腐れを抑えて、これまでの保存処理剤と比較して、非常に高い耐久性をもっている保存処理木材です。
また、フナクイムシへの耐久性も強く、厳島神社でも採用されています。
下に曝露実験の写真をのせます。

▲九州木材工業ホームページより引用
屋外で14年経過したあとも木材の痛みが見られません。
今回製作するベンチは屋外に設置するので、長く使ってもらえるようにエコアコール処理を行います。
九州木材工業の内倉さんにお願いして、エコアコール処理の過程を見学させていただきました。
ここでは、エコアコール処理の仕組み・行程だけでなく、木材の性質などについても詳しく教えてもらいました。ありがとうございました。
1ヶ月かけてエコアコール処理は終わり、いよいよ⑧本組み立ての作業が始まります。

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