風景と地域づくりの
出会いと発見DIARY
景観研究室は、プロジェクトや研究を通じて、九州各地の風景・地域づくりに取り組んでいます。地域の人達と未来を語り合う、デザインについて現場で喧々諤々議論する、素敵な風景や食文化を見つける、地域の人達との長いお付き合いが始まる…風景・地域づくりの中で、たくさんの出会いや発見、感動が生まれる毎日。そんな景観研究室の日常を、その時々の現役学生の目を通して、お伝えしていきます。
December 17, 2018
今年の主な出来事(その4):木製バリアフリー歩道の実証試験

9月から10月にかけて、伊都キャンパスの一角に木製バリアフリー歩道の実証試験設備を作りました。

この木製バリアフリー歩道は、三年前から科研費をいただいて進めている研究です。2004年に始まった三和町(現長崎市)での栄上為石線道路拡幅事業に九大景観研はアドバイザーとして参加しましたが、そこでの住民参加ワークショップ(23回開催!)で、コミュニティーに暮らす様々な障害をお持ちの方々にとって使いやすい歩道とはどんなものかを市民目線、住民目線で考えたのが、この研究のきっかけになりました。

以来、様々な試行錯誤を経て(この辺はこのブログの「長崎市三和町」のカテゴリーを選んでいただくと、いろいろ記事があります)、日本各地の山に眠っている杉を用いたウッドデッキで歩道を作る、というアイデアに行き着きました。

九州大学農学部林産学科の樋口光夫教授(僕の親戚ではありません)が開発され1999年に九州木材工業(株)で製品化された環境に優しいスギ・ヒノキの防腐処理技術(http://www.kyumoku.co.jp/development.html)の存在を知ったことも、このアイデアを前に進める大きな力になりました(九大景観研では2002年頃から、ボラード、サイン、街灯、車止め、歩道橋など、様々な木製構造物でこの素晴らしい技術を使わせていただいています)。

木製バリアフリー歩道の特徴はたくさんありますが、一番は白杖で叩いたときのコンクリート舗装やアスファルト舗装とは明らかに異なる「音」です。視覚障害のある方は様々な情報から自分のいる位置を認識されますが、その中でも「音」は特に重要です。現在一般的なインターロッキング(コンクリート)舗装やアスファルト舗装の歩道ですと、何かの拍子に車道に出てしまった時に白杖の打音が同じなのでそれに気づかないことがあります。これはとても危険なことです。歩道が木製であれば、この「音」が全く違うので、歩道からズレるとすぐに気がつきます。

また、歩いた時の足裏から伝わる感覚がコンクリート舗装やアスファルト舗装に比べて「柔らかい」ことも、自分が歩道にいることを把握する上で重要な情報になります。

こうした木材の特性を活かすことで視覚障害のある方が安全に歩行できる歩道を実用化することが、この研究の最終目標です。

三年間の科研費研究の最終年に当たる今年は、昨年までに明らかにした木材の音響特性データと、視覚障害をお持ちの方達にお願いして実施した舗装比較試験(車で持ち運び可能なサイズの数種類の舗装サンプルを叩いたり乗っかったりしていただく試験)の結果を踏まえて、実証試験を実施しました。

まず、幅4メートル、延長約20メートルの歩道を伊都キャンパス内に建設しました。工事監督はテクニカルスタッフの荒巻君。地元の工務店さん(荒巻君のお知り合い)の力もお借りしました。

掘削工事から始まり、基礎コンクリートの打設、根太材の設置、デッキ材の設置、アスファルト舗装の施工、そして視覚障害者誘導ブロック(黄色い線)の貼り付けまで、大学院生の原田君(来年取り組む修論のテーマが木製バリアフリー歩道です)、四年生の佐々木君(この試験が卒論になります)、日下部君、藤村君の大いなる助力のもと、無事完成しました。みなさん、お疲れ様でした! これまでに履修したコンクリート工学他の講義が少しは役に立ったかな…

完成した試験歩道を使って、さっそく27名の視覚障害をお持ちの方々に大学までお越しいただき、アスファルト舗装と木製デッキ舗装の上を実際に歩き比べた際の両者の違いについてご意見、ご感想を伺いました。

来年は、さらに約70名の方にご協力いただき合計100名分のデータを収集し、その分析から木製バリアフリー歩道の有効性を明らかにする予定です。いい結果が出ますように!

 

試験歩道を設置する場所の掘削が完了した状況。幅4メートル、長さ約20メートル。手前が杉板デッキ舗装、奥がアスファルト舗装になります。

 

デッキ舗装部分の基礎コンクリートが打ち終わった状況。この後、奥の土が見えている部分にアスファルト舗装を施します。

 

歩道の端に境界ブロックを入れるための基礎コンクリートを打設中。

 

防腐処理済みの杉板のデッキ材部分がほぼ完成した状況。この後中央部分に視覚障害者誘導ブロックを貼り付けます。

 

性能評価のための歩行テストの一コマ。ヒアリングをしているのは四年生の佐々木君です。数ヶ月間太陽の光を浴びると杉板は茶色に変色し、誘導ブロックの黄色がもっと目立つようになります。

December 16, 2018
今年の主な出来事(その3):直方駅旧車寄せのモックアップ

九大景観研は、遠賀川河川敷の改修事業に参加させていただいて以来、直方市中心部を元気にする取り組みでもいろいろとお手伝いさせていただいています。

今年も幾つかのプロジェクトで頑張りました。その一つが、旧直方駅車寄せの保存事業のお手伝いです。

旧駅舎が解体撤去される際に、駅を愛する市民の方々の声を受けて、直方駅のシンボルであった車寄せのみですが、部品が直方市役所により保存されました。今年になって、この車寄せを新しくなった直方駅前のシンボルとして復元しようということになり、壬生市長から九大景観研に「どんな復元が良いか考えてください」とのご依頼をいただきました。

九大景観研の得意技のひとつは、こうした場合にすぐ「モックアップ(実物大の模型)」を作ってしまうこと。今回もそうすることにしました。実物大の模型を設置予定地に据えてみれば、小さな模型を使うよりもはるかにリアルな議論ができるというものです。

製作を担当してくれたのは、研究室の学生さんたち。中心は四年生の三人(日下部君、佐々木君、藤村君)です。材料は九大農学部他が今年伊都の新キャンパスに移転する際に発生した大量の使用済みダンボール箱。どうすれば軽くても十分な強度のある模型が作れるかを試行錯誤しながら、数週間後にはかなり正確なモックアップが完成しました。

現地検討会前日に市役所の皆さんにも手伝っていただいて沢山のパーツを伊都キャンパスから直方に搬入し、翌日早朝から皆で組み立て、予定時刻までに無事完成させることができました。

おかげさまで検討会には大勢の市民の皆さんが参加してくださいました。参加者からの様々なリクエストに応じてモックアップを持ち上げて動かす作業を何度も繰り返しの10月15日、ベストのレイアウトを皆で考えました。

この日のことを西日本新聞が記事にしてくださっています。以下のURLでご覧いただけます。

https://www.nishinippon.co.jp/nnp/f_chikuhou/article/460437/

参加してくださった市民の皆さん、裏方仕事を手伝ってくださった市役所の皆さん、壬生市長さん、研究室の学生諸君、本当にお疲れ様でした! この成果が車寄せの復元に役立つことを心から願っています。

 

解体される前の直方駅車寄せ。柱がエンタシスになっているなど、凝ったデザインの木造構造物でした。

 

伊都キャンパス中からかき集めてきた大量の使用済みダンボール箱。

 

トラス部分の組み立てが一番むづかしい。力を合わせて頑張りました。

 

いよいよ梁が入ると、それっぽくなってきます。

 

直方駅前の市有地で組み立て完了したモックアップ。当日お招きしていた地元の皆さんばかりでなく、たまたま通りかかった方も加わり、どの位置にどの向きで設置すればいいかを熱心に議論していただきました。

 

「想像していたよりもうんと大きいねー」。組み立てたモックアップを見ての壬生市長はじめ皆さんの感想です。屋根庇があればさらに大きくなります。

 

集まられた市民の皆さん、市役所の皆さんの熱い視線の先に、ダンボール箱製のモックアップがあります。

 

December 13, 2018
今年の主な出来事(その2):ヨットを手放しました

私事ですが、一昨年末に永年唐津のヨットハーバーに置いていたヨットを手放しました。深川君たちの世代までは学生さんが一緒に乗ってくれていたのでそれなりに出港機会もありましたが、ここ数年は希望者もいなくなり、船を訪れるのは修理ばかり。これでは船がかわいそうです。そこで思い切って使ってくださる方にお譲りすることにしました。今は長崎の南端、野母崎に浮かんでいます。

 

昨年11月4日、野母崎に向かう途中で時化を避けて平戸島の漁港に停泊中のみんみん丸。

ヨットをやめたのではありませんよ。定年後には取り回しのしやすいクラシックなデイセーラーを米国東海岸あたりから手に入れたいと考えています。Herreshoffなんか、いいですね。

 

次はこんなデイセーラー

この記事を書いていたら、悲しい知らせがありました。オリンピックのヨット競技で男女通じて日本初のメダリストになった重由美子さんが亡くなりました。最後まで唐津のヨットハーバーを拠点に選手兼指導者として頑張っていらっしゃいました。ご冥福をお祈りいたします。

 

December 5, 2018
今年の主な出来事(その1):嘉瀬川ダム優秀賞受賞

一年近くブログを書いていなかったので、新スタッフの紹介に続いて景観研のこの一年での主な出来事を振り返ってみたいと思います。

まずは嘉瀬川ダムの土木学会デザイン賞優秀賞の受賞です(正確には2017年度)。平成15年から20年にかけて、国交省九州地方整備局が設置したダム景観検討委員会の委員としてダム本体の景観デザインを詰めていく議論と作業に参加しました。民主党政権下の「事業仕分け」の最中に委員会が閉会となった後は、未着手であった詳細デザインを九大景観研でスタディし、工事事務所に提案させていただきました。

工事事務所の皆さんは、タイトな予算と工期、そして困難な原石確保等で大変な苦労をされました。僕も設計コンサルタントの皆さんと一緒に、少しでもダムの景観的質を高めようと必死で頑張った数年間でした。パニック障害で倒れたのもこの時期です。

何もかもギリギリでしたので、実現できなかったことが多数あり悔いも残る仕事でしたが、優秀賞として選定していただいたときは本当に嬉しかったなあ。当時テクニカルスタッフとして頑張ってくれた伊東くん(現東京建設コンサルタント)、修士課程だった筒井くん(現鹿島建設)、よかったね!

最優秀賞にならなかったのは、ダム本体以外をデザイン対象とすることができなかったから、と僕は考えています。同じ年度に最優秀賞を受賞した内海ダム、2018年度に最優秀賞を受賞した津軽ダムは、どちらもダム湖や道路などダム本体以外の景観要素までデザインの対象としており、トータリティが受賞のキーポイントになっています。

ダムが完成したのち、そこを訪れる人々の多くはダム本体ではなくダム湖に目を向けます。ダムの景観設計において、人工的に創出されるダム湖とその周辺部分の景観的質の高さはダム本体のそれ以上に重要であり、ダム事業に対する社会的評価への影響も大きいのです。今後建設される全てのダムでトータルデザインの思想が導入されることを強く望んでいます。

 

試験湛水時の嘉瀬川ダム全景
右岸にあるダム管理棟周辺やダム直下の左岸側斜面の緑化は予算不足でできませんでした。ダム湖外周部に多数ある切土法面は、美しい自然に刻まれた「傷」のように見えます。

 

試験湛水時越流中の嘉瀬川ダム。

December 4, 2018
新スタッフ紹介(その2)

前回に続き、もう一人の新しいスタッフを紹介します。特任助教の羽野君です。

九州大学には、障害者差別の解消の推進に係る企画・立案及び実施・調整並びに障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決に係る調査・審議を行うために設けられた障害者支援推進専門委員会がありますが、その中に設けられた「九州大学キャンパスバリアフリー検討研究会」を事務局として運営するのが羽野君の仕事です。

所属はキャンパスライフ・健康支援センター内のインクルージョン支援推進室ですが、僕がこの研究会の会長をさせていただいている関係で、羽野君のデスクは景観研と支援推進室の二か所にあり、普段は景観研の方で仕事をしています。

荒巻君と同じく九大景観研のOBです。九大キャンパスを「バリアフリーリーディングユニバーシティ」にするため、毎日飛びまわっています。

バリアフリーの対象は、視覚障害、四肢障害、発達障害、LGBTなど、実に多様です。どうすれば誰にでも優しいキャンパスになるのか? 羽野君の戦いは続きます。みなさん応援ヨロシクお願いします!

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