風景と地域づくりの
出会いと発見DIARY
景観研究室は、プロジェクトや研究を通じて、九州各地の風景・地域づくりに取り組んでいます。地域の人達と未来を語り合う、デザインについて現場で喧々諤々議論する、素敵な風景や食文化を見つける、地域の人達との長いお付き合いが始まる…風景・地域づくりの中で、たくさんの出会いや発見、感動が生まれる毎日。そんな景観研究室の日常を、その時々の現役学生の目を通して、お伝えしていきます。
December 31, 2018
今年の主な出来事(その6):新合同庁舎が完成しました!

今年の春、唐津東港に、唐津海上保安部、九州地方整備局唐津港湾事務所などの機関が入る国の新合同庁舎が完成しました。老朽化し耐震性能不足の建物を建て替えた、といえばそれだけなのですが、実はこの新築工事に唐津みなとまちづくり懇話会が大きく関わっているのです。

懇話会が生まれて間もない2004年にこの取り組みはスタートしました。今からもう14年も前のことです。

一般的な建て替えの場合、今立っている場所の近くに土地を借りてプレハブの仮事務所を建て、業務を一旦そっちに移した後で古くなった建物を解体撤去し、改めて新庁舎を建設し業務も戻す、というのが普通ですが、唐津東港ではそうはなりませんでした。

「地域素案」というものがあります。懇話会が作った唐津の海辺の未来予想図で、懇話会活動のバイブルになっています。この中で懇話会は、旧三菱合資会社の建物を現在の位置から東港の海辺に移転保存することを提案しています。

 

2010年頃の唐津東港(写真右端)と旧三菱合資会社(写真左端)。写真に写っている陸地のほとんどは明治期以降の埋立地。それ以前の海岸線は旧三菱合資会社のすぐ右側でした。

 

旧三菱合資会社について少し説明しないといけませんね。この建物は、かつて良質な伊万里炭鉱の石炭積出港として唐津が繁栄した時代を今に伝える歴史的建造物です。唐津出身の建築家、曽根辰三の事務所が設計しました。この建物が造られた当時、すぐ目の前の海面にはいつも多数の貨物船や外国航路の客船が停泊していたそうです。しかし今日、二階の素敵なバルコニーから海を見渡すことができません。埋め立て工事や道路橋の建設で視界が遮られてしまっているのです。長い時間の中で建物の老朽化も進んでおり、大規模な修繕が必要となっています。懇話会の提案は、この旧三菱合資会社の建物を再び唐津港の光のあたる場所に移築し博物館やイベントスペースとして利用し続けていこうというものです。

古くなった合同庁舎は、東港の最奧部、つまり海への眺め、そして海からの眺めの両方がとても良い好立地の場所に建っていました。合同庁舎を建て替える際に別の場所に建てていただくことができれば、元あった場所(旧三菱合資会社にとって一番いい場所)に旧三菱合資会社の建物を持ってくることができます。

こうした懇話会の思いを汲んで、佐賀県港湾部局では、合同庁舎の建て替えが具体化する中で、現在の位置に移転する方向で国との調整にあったてくださいました。2004年から数年、調整は無事に進み、新合同庁舎は隣地に新築、旧庁舎は解体撤去という方針が決まりました。

具体的な新合同庁舎の設計作業がスタートしたのは2014年からです。まず懇話会から九州地方整備局に嘆願書を差し上げ、デザインに地元の希望を取り入れて下さるようお願いしました。その後は、九州地方整備局の担当者の方々とデザイン専門家会議(懇話会を支援するための専門家グループ)とで何度も打ち合わせを重ね、途中からは設計を担当する設計事務所にも加わっていただき、様々な事項について詳細な検討を進めていきました。

 

これが旧三菱合資会社唐津支店本館。明治41年の竣工です。この写真では見えませんが、基礎部分はイギリス積みの煉瓦造です。裏側(海側)には瀟洒なバルコニーがあります。当時はとてもモダンな建物だったのでしょう。

 

同じくイギリス積みの煉瓦構造が特徴的な唐津鐡工所唐津工場旧発電所(現株式会社唐津プレシジョン)。大正2年竣工。

 

将来隣地に移設されるであろう旧三菱合資会社建物と新合同庁舎とが風景として違和感なく共存できること、閉鎖的な印象を与えずできるだけ市民に開かれた印象の建物とすることが、最も重要な検討の視点でした。

具体的なデザインに関する検討事項としては、唐津港が石炭積出港として繁栄した時代を象徴する煉瓦積みの意匠を取り入れること、どこからも目立つ建物となることから建物の四周全てを正面としてきちんと整えること、建物敷地に塀を設けず周囲の緑地公園とオープンにつなぐこと、そして公園利用者のことを考えて一階部分に深いひさしを設けること等を懇話会から要望しました。

どれも難問ばかりでした…が、ほとんどすべてが懇話会の希望する方向で実施されることになったのです。地域の思いをしっかり受け止め、限られた予算の中で精一杯の努力をしてくださった九州地方整備局の担当の皆さんのおかげです。感謝。

 

新合同庁舎の外壁に用いる煉瓦調タイルの選定だけで何回も協議を重ねました。

 

今年初夏の竣工式後、佐賀県による新合同庁舎周辺の貼り芝工事が順調に進んでいます。来年度、海側に十本程度の松を配してやれば、風景はほぼ落ち着くことでしょう。

新合同庁舎の東側には広々とした空地があります。以前の合同庁舎が建っていた場所です。いよいよ旧三菱合資会社移築の準備は整いました。あとは建物の所有者である唐津市役所が英断をするだけです。来年は移築保存に向けた機運作りに頑張る一年になります。

さて、ギリギリになってしまいましたが、皆さん、来年もどうぞよろしくお願いいたします。

良いお年をお迎えください!

 

竣工した新合同庁舎。一階部分が煉瓦調タイル貼りになっています。敷地の外壁はありません(スゴい!)。庁舎手前の芝貼りは佐賀県唐津土木事務所が実施してくださいました。今年はここに松の若木をぜひとも植えましょう!

 

December 28, 2018
今年の主な出来事(その5):今年も唐津東港にベンチを設置しました

四月、景観研に配属になった新四年生に手伝ってもらい、今年も二基の木製ベンチ(唐津産杉材を使用)を唐津東港の海辺に設置することができました。例年同様、唐津みなとまちづくり懇話会を中心に寄付金を集めていただき(木材及び金属部品の購入とエコアコール処理とで一基約7万円)、九大景観研で加工・組み立てを行いました。組み立て作業をしてくれたのは、4月から北海道に飛んで行った榎本さんを中心に昨年度の四年生(原田くん、森崎くん)他の皆さんです。

幸い好天に恵まれ、暖かな陽気の中で作業すること数時間、午前中で無事据付を完了しました。これまでに設置した数は12基。あと二基設置すれば、この岸壁部分のベンチの設置は完了します。何年もかかりましたが、来年にはなんとか達成できそうです。唐津みなとまちづくり懇話会の皆さん、来年もよろしくお願いいたします!

 

毎年同じですが、まず振動ドリルで煉瓦と基礎コンクリートに穴を開け、アンカーボルトを打ち込みます。

 

唐津城と鏡山を見ながら、ダブルナットでしっかりと固定します。遠くに見えるのは唐津城。その左は鏡山です。

 

据付完了! お疲れ様でした。

December 17, 2018
今年の主な出来事(その4):木製バリアフリー歩道の実証試験

9月から10月にかけて、伊都キャンパスの一角に木製バリアフリー歩道の実証試験設備を作りました。

この木製バリアフリー歩道は、三年前から科研費をいただいて進めている研究です。2004年に始まった三和町(現長崎市)での栄上為石線道路拡幅事業に九大景観研はアドバイザーとして参加しましたが、そこでの住民参加ワークショップ(23回開催!)で、コミュニティーに暮らす様々な障害をお持ちの方々にとって使いやすい歩道とはどんなものかを市民目線、住民目線で考えたのが、この研究のきっかけになりました。

以来、様々な試行錯誤を経て(この辺はこのブログの「長崎市三和町」のカテゴリーを選んでいただくと、いろいろ記事があります)、日本各地の山に眠っている杉を用いたウッドデッキで歩道を作る、というアイデアに行き着きました。

九州大学農学部林産学科の樋口光夫教授(僕の親戚ではありません)が開発され1999年に九州木材工業(株)で製品化された環境に優しいスギ・ヒノキの防腐処理技術(http://www.kyumoku.co.jp/development.html)の存在を知ったことも、このアイデアを前に進める大きな力になりました(九大景観研では2002年頃から、ボラード、サイン、街灯、車止め、歩道橋など、様々な木製構造物でこの素晴らしい技術を使わせていただいています)。

木製バリアフリー歩道の特徴はたくさんありますが、一番は白杖で叩いたときのコンクリート舗装やアスファルト舗装とは明らかに異なる「音」です。視覚障害のある方は様々な情報から自分のいる位置を認識されますが、その中でも「音」は特に重要です。現在一般的なインターロッキング(コンクリート)舗装やアスファルト舗装の歩道ですと、何かの拍子に車道に出てしまった時に白杖の打音が同じなのでそれに気づかないことがあります。これはとても危険なことです。歩道が木製であれば、この「音」が全く違うので、歩道からズレるとすぐに気がつきます。

また、歩いた時の足裏から伝わる感覚がコンクリート舗装やアスファルト舗装に比べて「柔らかい」ことも、自分が歩道にいることを把握する上で重要な情報になります。

こうした木材の特性を活かすことで視覚障害のある方が安全に歩行できる歩道を実用化することが、この研究の最終目標です。

三年間の科研費研究の最終年に当たる今年は、昨年までに明らかにした木材の音響特性データと、視覚障害をお持ちの方達にお願いして実施した舗装比較試験(車で持ち運び可能なサイズの数種類の舗装サンプルを叩いたり乗っかったりしていただく試験)の結果を踏まえて、実証試験を実施しました。

まず、幅4メートル、延長約20メートルの歩道を伊都キャンパス内に建設しました。工事監督はテクニカルスタッフの荒巻君。地元の工務店さん(荒巻君のお知り合い)の力もお借りしました。

掘削工事から始まり、基礎コンクリートの打設、根太材の設置、デッキ材の設置、アスファルト舗装の施工、そして視覚障害者誘導ブロック(黄色い線)の貼り付けまで、大学院生の原田君(来年取り組む修論のテーマが木製バリアフリー歩道です)、四年生の佐々木君(この試験が卒論になります)、日下部君、藤村君の大いなる助力のもと、無事完成しました。みなさん、お疲れ様でした! これまでに履修したコンクリート工学他の講義が少しは役に立ったかな…

完成した試験歩道を使って、さっそく27名の視覚障害をお持ちの方々に大学までお越しいただき、アスファルト舗装と木製デッキ舗装の上を実際に歩き比べた際の両者の違いについてご意見、ご感想を伺いました。

来年は、さらに約70名の方にご協力いただき合計100名分のデータを収集し、その分析から木製バリアフリー歩道の有効性を明らかにする予定です。いい結果が出ますように!

 

試験歩道を設置する場所の掘削が完了した状況。幅4メートル、長さ約20メートル。手前が杉板デッキ舗装、奥がアスファルト舗装になります。

 

デッキ舗装部分の基礎コンクリートが打ち終わった状況。この後、奥の土が見えている部分にアスファルト舗装を施します。

 

歩道の端に境界ブロックを入れるための基礎コンクリートを打設中。

 

防腐処理済みの杉板のデッキ材部分がほぼ完成した状況。この後中央部分に視覚障害者誘導ブロックを貼り付けます。

 

性能評価のための歩行テストの一コマ。ヒアリングをしているのは四年生の佐々木君です。数ヶ月間太陽の光を浴びると杉板は茶色に変色し、誘導ブロックの黄色がもっと目立つようになります。

December 16, 2018
今年の主な出来事(その3):直方駅旧車寄せのモックアップ

九大景観研は、遠賀川河川敷の改修事業に参加させていただいて以来、直方市中心部を元気にする取り組みでもいろいろとお手伝いさせていただいています。

今年も幾つかのプロジェクトで頑張りました。その一つが、旧直方駅車寄せの保存事業のお手伝いです。

旧駅舎が解体撤去される際に、駅を愛する市民の方々の声を受けて、直方駅のシンボルであった車寄せのみですが、部品が直方市役所により保存されました。今年になって、この車寄せを新しくなった直方駅前のシンボルとして復元しようということになり、壬生市長から九大景観研に「どんな復元が良いか考えてください」とのご依頼をいただきました。

九大景観研の得意技のひとつは、こうした場合にすぐ「モックアップ(実物大の模型)」を作ってしまうこと。今回もそうすることにしました。実物大の模型を設置予定地に据えてみれば、小さな模型を使うよりもはるかにリアルな議論ができるというものです。

製作を担当してくれたのは、研究室の学生さんたち。中心は四年生の三人(日下部君、佐々木君、藤村君)です。材料は九大農学部他が今年伊都の新キャンパスに移転する際に発生した大量の使用済みダンボール箱。どうすれば軽くても十分な強度のある模型が作れるかを試行錯誤しながら、数週間後にはかなり正確なモックアップが完成しました。

現地検討会前日に市役所の皆さんにも手伝っていただいて沢山のパーツを伊都キャンパスから直方に搬入し、翌日早朝から皆で組み立て、予定時刻までに無事完成させることができました。

おかげさまで検討会には大勢の市民の皆さんが参加してくださいました。参加者からの様々なリクエストに応じてモックアップを持ち上げて動かす作業を何度も繰り返しの10月15日、ベストのレイアウトを皆で考えました。

この日のことを西日本新聞が記事にしてくださっています。以下のURLでご覧いただけます。

https://www.nishinippon.co.jp/nnp/f_chikuhou/article/460437/

参加してくださった市民の皆さん、裏方仕事を手伝ってくださった市役所の皆さん、壬生市長さん、研究室の学生諸君、本当にお疲れ様でした! この成果が車寄せの復元に役立つことを心から願っています。

 

解体される前の直方駅車寄せ。柱がエンタシスになっているなど、凝ったデザインの木造構造物でした。

 

伊都キャンパス中からかき集めてきた大量の使用済みダンボール箱。

 

トラス部分の組み立てが一番むづかしい。力を合わせて頑張りました。

 

いよいよ梁が入ると、それっぽくなってきます。

 

直方駅前の市有地で組み立て完了したモックアップ。当日お招きしていた地元の皆さんばかりでなく、たまたま通りかかった方も加わり、どの位置にどの向きで設置すればいいかを熱心に議論していただきました。

 

「想像していたよりもうんと大きいねー」。組み立てたモックアップを見ての壬生市長はじめ皆さんの感想です。屋根庇があればさらに大きくなります。

 

集まられた市民の皆さん、市役所の皆さんの熱い視線の先に、ダンボール箱製のモックアップがあります。

 

December 13, 2018
今年の主な出来事(その2):ヨットを手放しました

私事ですが、一昨年末に永年唐津のヨットハーバーに置いていたヨットを手放しました。深川君たちの世代までは学生さんが一緒に乗ってくれていたのでそれなりに出港機会もありましたが、ここ数年は希望者もいなくなり、船を訪れるのは修理ばかり。これでは船がかわいそうです。そこで思い切って使ってくださる方にお譲りすることにしました。今は長崎の南端、野母崎に浮かんでいます。

 

昨年11月4日、野母崎に向かう途中で時化を避けて平戸島の漁港に停泊中のみんみん丸。

ヨットをやめたのではありませんよ。定年後には取り回しのしやすいクラシックなデイセーラーを米国東海岸あたりから手に入れたいと考えています。Herreshoffなんか、いいですね。

 

次はこんなデイセーラー

この記事を書いていたら、悲しい知らせがありました。オリンピックのヨット競技で男女通じて日本初のメダリストになった重由美子さんが亡くなりました。最後まで唐津のヨットハーバーを拠点に選手兼指導者として頑張っていらっしゃいました。ご冥福をお祈りいたします。

 

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