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西海国立公園九十九島。東郷元帥ゆかりの佐世保港。どちらも佐世保の顔として広く知られています。ですが、この二つの海の間に、松浦党以来の豊かな郷土史と美しい風景を具えた素敵な場所、俵ヶ浦半島があることは、あまり認識されていません。
 浦々を巡れば四季折々の草花に彩られた美しい集落に出会えます。稜線に広がる農地に立てば九十九島と佐世保湾を一望することもできます。人はみな優しく朗らかです。
 しかしながら、日本の多くの農漁村と同様に、人口の減少や高齢化・少子化などの課題を抱え、将来の展望を描き出すのが難しい状況にあるのも、俵ヶ浦半島の現実です。
 そんななかにもかかわらず、俵ヶ浦半島先端にある俵ヶ浦町では、地元に残る丸出山観測所跡などの旧海軍遺構を訪ねてこられる観光客をおもてなしするために、地域の皆さんが力を合わせて遺構周辺の整備を進められてきました。
 平成25年の夏、九大景観研究室は、佐世保観光コンベンション協会の皆さんと一緒に俵ヶ浦町公民館の南部館長にお目にかかりました。いろいろと相談させていただいた結果、地域の皆さんと九大が一緒になって遺構や景勝地を巡るトレイルルートづくりを進めてみようということになりました。
 以来毎年少しずつルートを増やしてきました。目に見える成果は二つ。一つ目は、地域の皆さんがワークショップで出し合った地域の物語やおすすめスポットを織り込んだトレイルマップです。そして二つ目は、ルート沿いに設置されたたくさんの手作りの案内サインです。
 この他に目には見えないけれど大切な成果が一つあります。それは、地域を越えて様々なところから多くの人々が俵ヶ浦に集まり一緒になって汗をかいてきた、という事実です。はじめは地域の大人だけの集まりでしたが、サイン作りが始まると地元の子供達が大勢加わるようになり、サインをトレイルに沿って設置する日には米軍佐世保基地の皆さんや自衛隊の皆さんをはじめ地域外からたくさんのボランティアの方達が集まってくださるようになりました。
 このネットワークを大切にしながら今後も少しずつ皆んなで楽しみながらトレイルの整備を続けていけたら、十年後にはトレイルが俵ヶ浦半島全体に広がっているかもしれません。自慢の手作りトレイルを楽しみに訪れてくださる方々との出会いもそれに合わせて広がっていくでしょう。そうした中から地域づくりの新たな手がかりがきっと見つかるに違いありません。

 俵ヶ浦半島のまちづくりはこれだけに終わりません。ワークショップを通じて地域の課題や可能性に気づいた地域の皆さんは本格的にまちづくりに取り組み始めます。佐世保市役所の積極的な支援もあり、俵ヶ浦半島の未来を描き具体的なまちづくりに取り組むための「俵ヶ浦半島未来計画」を作成。さらに、計画づくりに参加した半島の若者たちが立ち上がり、まちづくり組織「一般社団法人チーム俵」を設立しました。
 トレイルからの眺望を確保するために眺望点の雑木を伐採し、伐採木を活用した木工作品を作って販売したり、「俵ヶ浦半島ハーブ」のブランド化や自然環境を活かした体験コンテンツを開発したり、持続可能なまちづくりを目指して取り組まれています。
 俵ヶ浦半島のまちづくりの挑戦は始まったばかり。これからも俵ヶ浦半島のまちづくりに目が離せません。
(俵ヶ浦半島ホームページ:https://tawara99.com


俵ケ浦半島の展望台から九十九島を望む。

俵ケ浦公民館に集まって「昔語り(子供時代の思い出話などを語り合う)」と「夢語り(地域の将来に向けた思いを語り合う)」に熱中する地域の皆さん。


昔語り、夢語りでは、半島の立体模型が大活躍。製作は九大景観研です。

トレイルサインの製作。地元産の杉板に彫った文字の中に白いペンキを流し込んでいきます。子供たちが大好きな仕事です。


サインを設置し終えての集合写真。子どもからおじいさんまで皆んなで頑張りました!

トレイルルートを示したマップ。持ち歩きやすいサイズで、現在は4種類が出来上がっています。


毎年春には菜の花ウオーク、秋にはコスモスウオークを開催します。地域外からたくさんの方達が参加されます。

眺望を確保するために樹木を一部伐採する半島の皆さん。チェーンソーの扱いもお手の物。


乾燥させた伐採木を使ったバードコール。俵ヶ浦半島の「俵」の刻印をして、オリジナル商品として販売。