風景と地域づくりの
出会いと発見DIARY
景観研究室は、プロジェクトや研究を通じて、九州各地の風景・地域づくりに取り組んでいます。地域の人達と未来を語り合う、デザインについて現場で喧々諤々議論する、素敵な風景や食文化を見つける、地域の人達との長いお付き合いが始まる…風景・地域づくりの中で、たくさんの出会いや発見、感動が生まれる毎日。そんな景観研究室の日常をお伝えしていきます。
March 29, 2013
三和ユニバーサルデザイン歩道の開発 これまでの取り組みと平成24度の調査結果 【三和/行徳】

卒論が終わったので僕がテーマとして取り組ませてもらった三和ユニバーサルデザイン歩道の開発について記しておきます。
先生、高尾さん、調査に協力していただいた全盲者の野口さん、弱視者の坂丸さん、車いす利用者の森さん、研究室OBの野口順平さん、これまで三和UD歩道の検討会に参加していただいた皆さまありがとうございました。
もう少し、この取組みは続きますがよろしくお願いします。
1.はじめに

視覚障害者誘導用ブロック(点字ブロック)は視覚障害者を主対象とするバリアフリー整備です。
視覚障害者には、全く目の見えない「全盲者」と目の見えにくい「弱視者」がいます。
誘導用ブロックの機能として、全盲者に対しては、ブロックの表面に凹凸を設けてその凹凸を足裏、白杖で認識してもらうことで誘導をしています。
弱視者に対しては、ブロックと周囲の舗装との明るさの差(輝度比)を視覚的に認識してもらうことで誘導しています。
したがって視覚障害者にとってこの凹凸や輝度比というのは道路を歩く上でとても重要な情報であることが分かります。
しかし、その凹凸に高齢者が歩く時につまずいたり、車いす利用者の車輪がひっかかり走行しにくいということや、目立ちすぎる誘導用ブロックは歴史的な町並みなどで景観的にあまり望ましくないという問題が指摘されています。

長崎市三和町では、長崎県による栄上為石線整備事業において市民参加での歩道のデザイン検討が行われました。視覚障害者、車いす利用者、地元住民、街路デザインのアドバイザーとして九州大学景観研究室が参加して、誘導用ブロックを用いない歩道を検討しました。
そして、視覚障害者だけでなく、車いす利用者や高齢者、歩道全体の景観にも配慮したユニバーサルデザインの歩道を目指して設計を行いました。
2005年2月〜2006年12月までに全22回開催された検討委員会や2007年に開催された社会実験を通して、3回試験施工をして設計改良に取り組み、2011年3月に栄上為石線は竣工を迎えています。
検討会ではユニバーサルデザインに関する項目だけでなく様々なことが議論されましたが、卒論ではユニバーサルデザインに関する部分に着目して完成した歩道部分の設計意図が達成しているか検証した結果についてまとめました。
2.設計プロセス

視覚障害者の野口さんから「誘導用ブロックでなくても,左右で舗装の粗さや色が違えばそれを頼りに歩行できる」という意見があり、誘導用ブロックを使用しないこととしました。
そして、歩道の設計にあたっては以下の3点を設計方針を定めました。
ⅰ全盲者、弱視者、車いす利用者に問題のない歩道
ⅱ景観にも配慮した歩道
ⅲ高価な材料を使用せず、通常程度の施工コストの歩道
先ほどの野口さんからのアイデアと設計方針をもとに歩道の検討が行われ、実施設計が完成しました。
3.整備内容

三和UD歩道は、左右のコンクリートとインターロッキング、中央2列のピンコロ石で構成されています。ピンコロ石は割肌仕上げで表面のざらついた10cm四方の立方体の石です。


それでは、実施設計とその設計意図について説明します。
【全盲者】
・左右の滑らかなコンクリートと粗いインターロッキング、中央のピンコロ石による粗度差で境界部を示して誘導します。
【車いす利用者】
・基本的には滑らかなコンクリート上を走行します。
・ピンコロ石を舗装面と出来る限りフラットに設置することで走行しやすいです。
【弱視者】
・左右のコンクリートとインターロッキングにより面的に輝度比を確保して誘導します。
・ガイドラインに示されている「弱視者,健常者ともに問題ない輝度比」を参考に、白色のコンクリートに対してインターロッキングの色を選択しています。
【その他】
・視覚障害者が歩車道境界を認識できるように、インターロッキングよりも触感覚や視覚的に認識しやすいと考えられるコンクリートを車道側に配置しました。
・ピンコロ石の個数は誘導用ブロックの(300mm)を基準として、視覚障害者が認識できて車いす利用者が走行しやすいように2個(210mm)としています。ピンコロ石の目地は、白杖で認識できて車いすの車輪がはまらないように幅10mmとして、舗装面から5mm凹ませています。
・代表的なコンクリート表面仕上げとして、滑らかな順に「金ゴテ仕上げ」「木ゴテ仕上げ」「ほうき引き」があり、金ゴテ仕上げでは雨の日など滑る危険性があるため木ゴテ仕上げとしました。
4.調査方法
全盲者、弱視者、車いす利用者に対する設計意図が達成されているか検証するために、
検討委員会で設計プロセスに参加していた野口さん(全盲者)、坂丸さん(弱視者)、森さん(車いす利用者)と完成した歩道を歩行して、三和UD歩道についてヒアリングしました。
その調査で設計意図が達成されているという評価が得られれば、より多くの障害者による調査を行う計画でありました。
しかし、調査後に設計通りに施工されていない問題が発見されたため、野口氏、坂丸氏、森氏と長崎県庁の野口さん(研究室OB当時三和の取り組みに参加)と景観研のメンバーで改善案の検討を行い、本研究の調査を終了しました。
県の担当者に話を伺ってみると、用地買収の問題や地すべりにより工事が遅れ、その間に検討委員会に参加していた県の担当者が異動され、設計意図が伝わらないまま工事が行われていたことが分かりました。
5.調査結果

・境界部を示すために左右のコンクリートとILによる粗度差に関して,施工による問題もあったが野口さん、坂丸氏は認識しにくいという評価でした。森さんはコンクリート、インターロッキングともに走行に支障はないという評価でした。
・境界部を示すために使用した粗度の少し大きいピンコロ石を野口さんは認識でき、森さんの走行にも支障はないという評価でした。
・コンクリートとILによる輝度比を坂丸氏は認識できるという評価でした。歩道全体で面的に輝度比を確保しているので、道の先まで視認できるという評価でした。
以上の評価をもとに改善案の検討をして、滑らかなコンクリートに対してより粗いILを使用することにしました。
今後の取組みとして、改善案の試験を野口さん、坂丸さん、森さんと行います。
僕は「わんさかさんわ」チームの中で一番下っ端もんではありますが、三和UD歩道の検討に少しでも力添えができればと思っております。関係者のみなさま今後ともご協力よろしくお願いします。

January 8, 2013
三和ユニバーサルデザイン歩道の話し合い【三和/行徳】

前回の現地歩行調査結果から、三和ユニバーサルデザイン歩道の改善案について話し合いを行いました。
参加者は、栄上為石線デザイン検討委員会に参加していた全盲の方、弱視の方、車いす利用者、研究室OBの野口さん(三和のプロジェクトに関わっていて、現在は長崎県振興局)、研究室から樋口、高尾、行徳の7名です。
地すべりや用地買収の遅れにより工事が遅れ、検討委員会終了から5年経過した去年の11月に歩行調査を行っています。5年も時間があいてしまったことで、九大も障害者の方も設計の経緯について覚えていない点がありました。先ず、三和UD歩道の設計プロセスについて詳細に振り返り、互いの立場について考慮しながら改めて現地歩行調査の結果について振り返りました。

話し合いの中では、三和式歩道は視覚障害者が認識できて、車いす利用者にも配慮しているという意見を頂きました。全盲の方から「歩行中に左右にそれても、真ん中を認識して自然と戻ってこれたら良い。」との意見を頂き、左右の舗装材の粗度差をより大きくするために改善案の検討を行いました。検討にあたっては、以下の2点に配慮しています。
1.車いす利用者の走行に支障をきたさない
2.コストが安く、維持補修が容易
改善案①インターロッキングの粗度を大きくする。
滑らかなコンクリートとの粗度差を大きくするために、表面の粗いインターロッキングを検討する。
何種類か粗度の違うインターロッキングを用意して、車いすの走行に問題がなく、全盲の方が足裏で認識できる粗度のインターロッキングを検討する。インターロッキングを製造している会社に協力していただき、試験を行う必要がある。
改善案②コンクリート+アスファルト案
全盲の方は、コンクリートとアスファルトの粗度の違いを認識でき、弱視の方は、コンクリートの白色とアスファルトの黒色による輝度比を認識でき、車いす利用者も普段から走行しているアスファルト上は問題ないと考えられる。試験の必要がある。
今後は、これらの改善案をもとに試験を行い、三和UD歩道の設計改良を行い、実用・普及を目指していきます。話し合いに参加してくださった障害者の皆さま、長崎振興局より駆けつけて頂いたOBの野口さん、ご協力いただきありがとうございました。改善に向けてもう少しの間、ご協力お願いいたします。

November 29, 2012
WS参加者による歩行調査【三和/行徳】

栄上為石線のWSに参加しており、三和式歩道ができるまでに意見をいただき、一緒に考えてきて、今までの経緯を知っている弱視者の方に完成した三和式歩道を歩いていただきました。普段、三和の行政センターに来られることはあるそうなのですが、完成した歩道を歩くのは初めてです。
11月16日に行ったWSに参加していただいていた全盲の方と車いすの方との調査を合わせて、それぞれの立場で完成した歩道への意見、感想と設計の改善案をまとめ、今後の三和式歩道の調査について意見をいただきます。

歩行ルートは三和行政センターから、さんとぴあ21までの約1.5kmです。途中で気づいた点は、コメントを地図上にプロットして、記録しました。さんとぴあ21についた後は、意見のまとめと設計の改善案と今後の取組みについて意見を伺いました。
最初に伺った意見は、コンクリートとインターロッキングのコントラストが分かりやすいということです。インターロッキングは5年前に行った社会実験で、弱視者の方に色のコントラストをもっとつけたほうがほうがいいという意見をいただき、設計の改良を行った部分です。

横断歩道部に関して今回の事業では、エスコートゾーンの設置や警告ブロックの代わりになるものは実現することができなかった部分ですが、横断歩道への誘導としてピンコロを使用しており、このピンコロの幅では全盲の方が見逃してしまうかもしれないので、もっと幅を広いものにしたほうが良いという意見を伺いました。

三和式誘導路は面的に白と黒のツートーンで色があり、道がどのように続いているのかが、先までよく分かり安心できるという意見をいただきました。
これは、健常者としては感じることのなかった視点であり、実際に視覚障害者の方の意見を伺うことは大変重要であると感じました。

歩行後はさんとぴあ21の中にある会議室で、今日の意見の振り返りと、設計の改善案と今後の調査について伺いました。
たくさんの貴重な意見をいただきましたが、今日の意見をまとめると、三和式歩道は色のコントラスト、足裏のピンコロによって、これを辿り、安心して歩行することができる。視覚障害者誘導ブロックが他の利用者にとってバリアになるのなら、私はこれを勧めたいという意見をいただきました。
歩道に関して設計の改善案としては、コンクリートとインターロッキングの2つの粗度の差をより大きい物にしたほうが良い。
また、今後三和式歩道について知らない視覚障害者の方にもっと歩いていただき、意見をいただいたほうがいいというものでした。
実際に、全盲、弱視、車椅子利用者の立場から意見を聞いた僕としては、3人とも自分たちの主張があり、この主張を話し合い、改善案を一緒に考えどのように実現するのかということが難しいし、今後取り組んでいかなければならない課題だと思います。今回の完成した歩道ができるまでにも、何度か試験舗装を実際に作って、歩行していただき意見をいただいては改良を行なうことで、現在の歩道が完成しております。しかし、まだ利用者みんなにやさしい道路に向けて改善できる点はあるようにも感じます。今後、まずは視覚障害者、車椅子利用者、ステッキ使用者など道路の影響を受けやすい方を中心に様々な方に意見をいただきつつ、三和式道路の改善を行い、この道路の取り組みが三和だけでなく、他の町にも応用されるようになれば、良いのではないかと思います。

October 3, 2012
現地調査【三和/行徳】

11月中頃に栄上為石線の歩行検証を行う予定で、現地調査として長崎三和に行ってきました。
栄上為石線は、平成16年に地元市民の皆さんと九州大学が参加し、県が事務局となって市民参加型でユニバーサルデザインの道づくりを考える取り組みがスタートしました。23回の市民参加ワークショップ(視覚障がい者、車椅子使用者も参加)を開催し、デザインを検討しました。平成19年には社会実験を行い、平成23年春に全7年かけて現在のユニバーサルデザインの舗装の道路が完成しました。今回はその最後の段階としてできあがった舗装の検証を行います。

わんさかさんわで頑張ってこられた若林さんにお話をお聞きしました。
この道路を作るとき、住民の方ははじめ、みちづくりに参加するということがなんなのか分からなかったそうです。ワークショップや現地見学会を通して今回の事業は「みちづくり」だけでなく、これをきっかけとして「まちづくり」をやるんだという意識になり、今までバラバラに行われていた地域の活動をひとつにして、まちを盛り上げようという思いでわんさかさんわができたそうです。
しかし、現在はみんなでつくりあげた道路の思いが、うまく受け継がれず、ポッケトパークは草が伸びて荒れていたり、様々な問題があるそうです。

この舗装は誘導ブロックの代わりにピンコロ石を使用しているのですが、そのピンコロ石の上にバス停が設置していたりと三和の歩道を作ったときの思いが受け継がれてないのはとてもさびしい気持ちになりました。
「大川を美しくする会」など三和には他にも継続的に活動を続けている方々がいらっしゃるので、今回の歩行検証をきっかけに、住民のみなさんの思いでつくりあげた道が注目され、地域の活動の一環として清掃が行われたりするようになればなと思います。
7年間様々な方が関わり、気持ちのこもった事業に参加させてもらうので、良好な結果が得られるような歩行検証を行えればなと思います。

March 21, 2011
わんさかさんわ【三和/羽野】

3月21日、長崎市の旧三和町で栄上為石線道路拡幅事業の完了に伴い竣工式が開催されました。この県道拡幅事業は、平成16年の冬から研究室が景観アドバイザーとしてかかわってきた事業です。住民参加ワークショップは計23回を重ね、その中でうまれた地元住民によるまちづくり団体「わんさかさんわ」とともに、活動を展開してきました。その後、拡幅事業は平成20年の冬に施工が開始され、この春にめでたく竣工しました。

歩道舗装は、車イスの車輪が挟まる危険性等も考えて通常の視覚障害者誘導ブロックを使用していません。ここでは、視覚障害者や車イス利用者が参加したワークショップにてその機能を検証したピンコロ石舗装を用いています。靴で踏むと、足の裏にしっかりとその存在を確認できます。また、川に面する区間は張り出し構造とし、ウッドデッキを採用しています。


学生が主導的に設計を進めたポケットパーク「集いの場」。事業区間の中央あたり、椿が丘団地入口に位置します。本日の竣工式の会場でした。(写真は竣工式開始前)


わんさかさんわの若林さん。今日の竣工に向けて、当初から長い間ご尽力されてきました。今日の竣工を誰よりも喜ばれていました。

竣工式での記念植樹。子供達が永くこの地を愛してくれることを願います。


竣工式後のお披露目ウォーク。皆さん楽しそうに歩いていました。境界のピンコロ石舗装を挟んで、自然と左右に分かれて歩いています。

子供達は、かけっこです。

こちらは、事業区間の長崎市中心部側に位置するポケットパーク「憩いの場」。お披露目ウォークの折り返し地点です。花壇にはたくさんの沈丁花(ジンチョウゲ)が植えられています。花が大きくなると、良い芳香を放つそうです。良い香りが漂う、その名の通りの「憩いの場」となるといいですね。


この県道栄上為石線の歩道舗装のコストは、十分に標準整備が可能なものです(当初設計案と比較して、約2割のコスト縮減を実現しています)。この舗装が標準仕様となり、広く県内に広まるといいですね。

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